『サンセット』




アウシュヴィッツの絶滅収容所の内部を詳細に描いた『サウルの息子』(2015)の監督ネメシュ・ラースローの新作『サンセット』

四コマ映画『サンセット』→http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2187

サウルの息子』では、FTS(ファーストパーソシューティングゲーム)のようにほとんどカメラは主人公の一人称視点です。
カメラが主人公サウルに近いので、観客はサウルが見たものと同じものを観ることになります。

体感ゲームのようにアウシュヴィッツ絶滅収容所の内部を動き回るので、それはそれは地獄のような時間なわけです。。
絶滅収容所で起こるあんなことやこんなことや、実際にあった集団蜂起の様子など生き残った証言者へのインタビューをもとに正確に再現しているので、客観的に「こんな大変なことがあったんだね」と教科書的に知るのではなく、体感してしまうのです。。

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新作『サンセット』でもカメラは主人公の女性イリスに近い近い。。また地獄へのジェットコースターに乗せられたような気分になります。

が、今回は1913年のブダペストの高級帽子店が主な舞台ですので、前作に比べたら相当にゴージャスな画面です。
しかもドキュメンタリー調だった前作より、かなりドラマが重視されてるし、人物も多いし、ストーリーも起伏が激しいです。

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しかしネメシュ・ラースロー監督はそんなに親切な人ではありませんよ。。
話がものすごくわかりにくい。。それは主人公イリスの状況と同じです。イリスには「兄を探す」というメインの目的があるんですが、事件に巻き込まれたり自分から事件の中心に行ったりして、、
いろんな人が出てきていろんな事件がおこりながらなんとなく「この人はこういう人、あの人はああいう人」と認識して行きます。イリスも同様に悪夢のような数日を生きていきます。

サッと画面に現れてなんか意味深な一言を言ってサッと画面から消えていく人ばかりで、何が起きているのか付いていくだけで必死。
でも美術が豪華で緻密なので、背景に写っているものの情報量はとても多いです。
どういう対立構造なのかがわかってきたところで、さすが『サウルの息子』の監督!と恐れおののく展開が。。

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舞台は1913年のブダペスト。第一次世界大戦の寸前。戦争が勃発して社会が混乱しているってことは、人の心も混乱しているということがわかってきます。
この映画では高級帽子店が舞台となっていますし、イリスも帽子をかぶっています。
人は高級でゴージャスな帽子をかぶることで「都会的な洗練された平静さを保っているように見せている」。
しかしその帽子の下には、「統制しきれない力がうごめいて闇と破滅へ連れていく」と監督は〝帽子〟というメタファーについて説明しています。

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監督は、『サウルの息子』を撮る前から「女性についての映画を作りたい」と考えていたとのこと。
ラストシーンでイリスがある場所にいるのですが、その場所のことを考えると、この映画が凡庸な「女性映画」などではないことがわかります。

『サウルの息子』が戦争の行き着いた先、であるなら、『サンセット』は戦争・文明破壊への入り口。

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四コマ映画『サンセット』→http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2187