「いま、妻たちが怒っている」映画『死の棘』 震洋と怒り

死の棘
上映日:1990年04月28日
製作国:日本
監督 小栗康平
脚本 小栗康平
原作 島尾敏雄
出演者 松坂慶子 岸部一徳 木内みどり


四コマ映画『死の棘』


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10代の時に見たはずだけどまっっったく覚えてなかった。。



松坂慶子が正座でキレれるのしか覚えてなかった。。
僕の母親もこういう感じのキレ方をする人だったので見ていて辛かった。我慢して我慢して我慢した果てにブチギレる。



小型特攻ボート 震洋

島尾敏雄とその妻の島尾ミホ、という実在の男女カップルの実話を夫の島尾敏雄が書いた私小説「死の棘」が原作。

原作は読んでないし、この夫婦についてほとんど知りません。詳しい考察や研究はたくさん出ていることでしょう。
僕は映画とちょっと調べたことをもとに感想を書きます。

強く感じたのは「男女の分断」。

前半で夫が洞窟からボートを曳き出すシーンがありますが、あれは小型特攻ボートの震洋ですね。

震洋は爆弾を載せたボードで、敵艦船に突っ込む特別攻撃兵器。
夫は震洋特攻隊の指揮官だった、と。
8月13日に突撃命令が降ったものの、敵艦隊が姿を見せずそのまま15日の終戦を知らせを聞いた、と。

つまり夫には相当なトラウマがあるんですね。
指揮官として見送った仲間や部下がたくさんいたはず。自分は生き残ってしまった。

妻は指揮官であった夫を尊敬していたようなので、この事実はもちろん知っていたのだけど、この映画の中では語られない。



「どちらの方が正しいのかはわかりません。でもそんな野蛮な行為は誰にも許されません。お願いですからやめてください」




夫が書いた私小説が原作なので?、どうしても夫の言い訳?感も感じてしまう。
「男だって辛いんだよ」と。
実際辛いでしょうよ。戦争行かされて特攻の指揮官させられて挙句自分は生き残って。

それに対して妻は夫の不倫をひたすらにキレている様子が描かれる。

どちらがどれくらい悪いのかの判断なんかできない。
終盤のお隣さんのセリフ「どちらの方が正しいのかはわかりません。でもそんな野蛮な行為は誰にも許されません。お願いですからやめてください」。が、この映画の言いたいこと?

でもやっぱこのセリフは夫が作り出したものだと考えるとお前が言うな感は拭えない。



男女の分断

男は外で戦わされて、女は内に閉じ込められる。
役割を背負わされても権利が平等ならばまだしも、男女には不均衡がある。

この映画の当時のコピーは「いま、妻たちが怒っている」。


僕はこのコピーにフェミニズム的なメッセージを感じました。
「やっと妻たちがブチギレていい時代が来たんだぜ」という。

しかしブチギレした結果は悲劇的だし
夫はほぼ実態を無くした幽霊のようになっており
狂った妻を健気に支える俺、というナルチシズムもやはり感じる。

とにかく男女の不均衡、分断がひたすらに解消されずに映画は終わっていく。
これが男女なのか、それともこの夫婦だけの話なのか。

とても怖く、面白かった

僕はひたすらに怖く、面白かった。
高校生の時に見たはずだけど、まぁ理解できるわけないよね。
当時はネットもないからネタバレとかWikiで調べることもできないし、わざわざ古本屋や図書館で「死の棘」の映画解説文を探すエネルギーもなかった。

「映画ってのはよくわからないもの」という思い込みもあって、見た後に深く知ろうともしていなかった。